2010/11/05 普門館 新たな大きな楽章(日本吹奏楽コンクール大会を終えて)

 6時過ぎにホテルを出発し、7時過ぎには普門館の会場に着いた。自由席の観客の方々は座席確保のため早くから並んで、すでに長蛇の列が出来ている。私どももその列に従った。普門館は二度目の来館である。数年前、全国高等学校校長会以来であり5000名収容の大きな会場には圧倒される。開演は9時、開場は8時20分、昨夜の台風一過で肌寒い中およそ一時間ばかり並んだ。出演順の早い高等学校が係員に誘導されて私たちの前を無言で足早に通り抜けて行く。智翠館高校の生徒も道路を隔てた大駐車場の石見観光バスの横で整列して並んでいるのが見える。係員に呼ばれるまで30分近く並んでいた。私たちも開場を待っている。

 8時10分頃ようやく本校の生徒たちが私たちの前を通過して行ったが、緊張しているのか、それとも一般観客と一切応答してはいけないとの通達があったのか、こちらが手を振っても誰も挨拶するでもなく、顔を合わすでもなく急ぎ足で過ぎ去って行く。2~3人の生徒が目を合わせ会釈をして行く程度だ。普段はつらつと笑顔で元気の良い挨拶をする生徒たちだけに奇妙な光景が目に映った。思案をしているうちに開場され、座席目指して早足に進んだ。中央部のやや後方の席に着き前後左右見渡してみると、さすがに広い、それが実感だ。開演に先立って審査員9名の先生の紹介、そして本番が始まった。

 トップバッターは、富山県立高岡商業高等学校、二番手は千葉県柏市立柏高等学校だ。さすが常連校、上手い。三番目に東京代表東海大学付属高輪台高等学校、これまた上手い。指導者は、本校田中先生の先輩であり、昨年末ウィーンの帰路、2~3時間練習風景を見学させていただいた高等学校である。本校と同じ課題曲Ⅰを演奏、地元の高校であり演奏後はブラボーの大歓声と大きな拍手が一段と凄い。四番目は九州地区代表熊本県玉名女子高等学校である。奇遇にも自由曲の、交響詩「ローマの祭」よりⅠチルチェンセスⅣ主顕祭が本校と同じ演奏曲であり、いやがうえにもどちらの演奏が良いのか聞き比べられてしまう。実際にどちらに軍配が上げられるのか私には判断が出来ない。女子生徒ばかりであったが中々迫力もあり甲乙つけがたいが、どうしても本校をひいきめで見てしまう。

 いよいよ本校の出番である。楽器等の入替えも終えいよいよ全国大会での本番演奏。曲目・指揮者の紹介とともに会場大きな拍手。遂に課題曲Ⅰの演奏が始まる。生徒の表情はどうか、会場全体への響きはどうか等を心配している間に課題曲は終わり、自由曲の「ローマの祭」の演奏に入った。寸分狂わぬハーモニー、右の袖に立って吹いている3名のトランペット奏者、調子は良さそうに感じられる。トロンボーンの独奏、息が大変、低音もきれいに出ている。クラリネットの二人の演奏、サックスの皆さん、みんな必死で素晴らしい演奏、健一先生が楽譜をめくる。この日のために人生をかけてきた執念が背中に見える。黒いスーツの背にしわが縦波に出来る。タクトだけでなく肩も肘も手首も、全身で強弱つけて、左右の各パートに顔を向け目でサインをおくりながら優しく強く皆をまとめ、最高の舞台で最高の演奏、まさに普門館、憧れの普門館、演奏の終わりと同時に「ブラボー」の歓声と拍手の嵐、応援にこられたご家族の方々、卒業生の方々、後援会他関係者の方々から、よくぞここまで頑張ってきたとの万感思いのこもった大きな拍手であった。

 特に3年生の皆さん、少ない人数でこれまで下級生を引っ張ってきてくれ、自身の自由と多くの時間を犠牲にし、まさに普門館にかけてきた青春、最高の思い出を胸に静かに楽器をしまうのもいいだろうし、もう1ケ月定期演奏会をエンジョイしながら渾身の力を発揮されるのもいいだろう。大きな一大事業を成し終えた皆さんに心から賞賛の言葉を贈りたい。石見智翠館高校での吹奏楽を志し、心一つにしてかけた情熱、耐えた苦しさ、流した涙、努力した日々、辛苦の全てを喜びに変えることが出来たことと思う。昨年末のオーストリア・ウィーンでの演奏会に続いてこの度の普門館、皆さんそれぞれの人生に大きな思い出を刻まれたことと思われます。本校にとりましても、新たな歴史、新たな伝統の一ページを飾っていただき光栄なことであります。後輩の皆さんも、更なる前進を心に誓い、目標高く一層精進され又大きな喜びを体験していただきたいものと思います。

 今回の全国大会を観賞して感じたことは、普門館に出てきている高等学校はどこの高校も素晴らしいということと、甲・乙判定をつけるということは至難の業であるが、その中でもゴールド金賞の栄を授かる高校の演奏は何か一味違う、神がかり的な完璧な演奏と一糸乱れぬきれいな音とハーモニー、そして緊張という鬼門を飛び越えた度胸と自信、そうしたもの全てが全員に要求され、忠実に実行されなくては取れない賞が「ゴールド金賞」なのではないかなと素人なりに感じたところです。個々の生徒さんもそれぞれ色々なことを勉強されたことでしょう。これからまだ先のある1・2年生の皆さん、個人の課題と目標、全体での課題と目標。それを鮮明に打ち出し、整理し着実にそのハードルを一つひとつクリアしていくことが明確になれば、今回の全国大会初出場は大きな自信と収穫になったことと思われます。素人の私でさえ、全国大会に出場することの難しさ、選ばれるということの素晴らしさ、普門館は価値ある殿堂の場ということを学ばせていただきました。

 この度の本校の全国大会出場に際しましては、関係者の多くの方々、保護者の方々、ご家族の皆様、地域の沢山の皆様方のご声援とご支援のお陰をもちまして、90名近くの生徒・教職員が8泊10日の普門館及び横浜大会への大遠征をすることが叶いました。これもひとえに皆様方のお力添えによるものと感謝しています。この場をお借りし簡単な報告を兼ねてお礼とさせていただきます。本当に有難うございました。

石見智翠館高校 校長 竹迫 繁

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